ダイナミックな空間と組み木細工のような繊細さを併せ持つ、三重県立熊野古道センター。設計者はプロポーザルコンペによって選ばれた、建築研究所アーキヴィジョンの担当で副所長だった広谷純弘氏。広谷氏は独立後も熊野古道センターの完成まで携わった。
「熊野古道にふさわしい木造の建物とするため、尾鷲ヒノキという地場産の材料を、市場に流通する規格のまま使用しました。またトラス架溝や集成材を使用せず、同一断面(135mm)の無垢材の集積による、“等断面集積木造構法”という今までにない工法で、大空間を実現することを試みました」。
構造は尾鷲ヒノキの135mm角の組柱と組梁の軸組。耐力壁も組み壁。基本構造ユニットの組み立ては工場でおこない、現場では伝統工法で施工できるように設計。さらに使用した尾鷲ヒノキ6549本すべてに対し、トレーサビリティを明確化している。棚田が尾鷲湾に向かって緩やかに下っていく段状の周辺環境に、水平性を強調した施設が調和している。「熊野古道は長い歳月を重ね、しっとりとした日本の原風景を醸し出しています。この建物も棚田のリズムを崩さず、自然に溶け込むことを考えました」(広谷氏)。
美しい風景は、つねに厳しい自然環境と隣合わせでもある。尾鷲は非常に雨が多い地域であり、台風の通り道としても知られる。また海から陸に登ってくる風の圧力で、屋根がめくれ上がる危険性もある。そういった条件から導き出されたのが、このフラットに近い形状の屋根だ。さらに屋根を「点」で固定するのではなく、しっかり貼り付ける「面」による固定が必須となり、パーフェクトルーフが採用された。同社では以前にも、いくつかの案件でパーフェクトルーフの使用経験があったが、大々的な使用は今回が初の試みとなる。今回の評価を受け、現在進行中のプロジェクトにも検討中だという。パーフェクトルーフに求めるものとして、広谷氏は設計の自由度をあげる。「本来、金属屋根でできなかった複雑な形が、質感を保ちながら表現できる。それによってデザインの提案も安心してできますから」。
取締役・副所長の石田氏は「いちばん心配なところに対して、もっとも適切な形で対応できている点」だと語る。「今回はできるだけフラットなものを求めていましたが、変形した屋根の場合、どうしてもジョイント部分が弱くなる。パーフェクトルーフは、こういった変化に追従しやすい。だから安心して使えます」。